奈良で写真撮ると時空を超えてワクワクする 感動で 自分の心が動いて その写真を見た人がまた心動く

– 写真家 三好和義

写真家

三好和義

三好和義 | Kazuyoshi MIYOSHI
1958年徳島市生まれ。中学時代に本格的に写真を始める。中学時代に地元の徳島新聞に売りこみをして採用、初めての掲載料を貰う。中3の夏、単身沖縄へ撮影旅。3年通い17歳の時、銀座ニコンサロンで個展開催。これは現在でも最年少記録。大学時代にプロ活動を開始。雑誌「BRUTUS」などで海外ロケなどに参加。表紙、グラビアを担当する。27歳当時の最年少記録で木村伊兵衛賞を受賞。以降「楽園」をテーマにハワイ、タヒチ、モルディブ、セイシェル、サハラ、ヒマラヤなど世界中で撮影。写真集は60冊を超える。最新刊はSUMOBOOK大型写真集「東大寺」。

本記事は、2021年11月29日(月)にBONCHI 4F TEN にて行われたトークイベント、”Work Magic NARA vol.1 “をテキスト化し、一部抜粋したものです。約90分のトークの全貌は、ZINE【Work Magic NARA books vol.1 にてご覧いただけます。  

1
“いい仕事、いい写真、の為に必要なことは何か。”

●三好 最初ね、仏像さん撮らせてもらってもね、なかなか映らへんなんだ(映らなかった)。

◯田中 うまく、自分が思うようには撮れなかった、と?

●三好 最初婦人画報の仕事でね、当時撮らせてもらったのにね、せっかくあれ許可もらったのに、プラスチックかビニールで作ったような仏像さんしか映れへんなんだ(映らなかった)、最初。ピントをどこに合わせたらええやわからん。そんな感じでね、なかなかね、最初は映らなんだ(映らなかった)。

◯田中 でもそこでくじけずに。

●三好 うん。いやそれからやっぱり僕はその小学生のときに、その仏像を撮れるような、国宝を撮れるような写真家に将来なりたいと思とったっていうので、中国に行ってみたり、 屋久島で修行を積んだり、八十八ヶ所を回ったり、いろんな体験を積んでやっとね、いろいろできるようになったかな。2年くらい前かな?そして1mくらいの大きな本をね、東大寺の本を作った。

◯田中 40万円ぐらいするやつ?

●三好 39万円(笑)。そんな本を作ったりね。

◯田中 仏像を撮られて、
全然、よく撮れなかったっていうところがあったのに、今素晴らしいじゃないですか。東大寺の写真も、室生寺さんの写真も。

◯三好 やっぱりいろいろ考えたっていうことかな、体験も積んだっていうところ。あとは年齢も大きいかもしれないですね。

◯田中 年齢ですか。

●三好 40代くらいでは展覧会の図録くらいは撮れたとしても、やっぱり人の心を打つとはなかなか言わんけど、ちょっと揺らすくらいの写真を撮りたいなっていうのはあったんですよね。八十八ヶ所を回ったときにはやっぱりお祈りしている人がたくさんいるし、そういうのを見たり体験したり、自分も手を合わせたり。そういうところでどんどん撮り方も見方も変わってきたというか、変わっていったっていうところかな。

◯田中 僕、
カメラを撮るっていうことに関しては全然素人なんで、詳しいことはひょっとしたら会場にいる皆さんの方が詳しいのかも知らないけど。「技術」っていうのはいわゆる、このメカに対する知識とかやり方だけではないじゃないですか。

●三好 まあスマホでも撮れるけど。最近はミラーレスの一眼レフ、デジタルとかになってきて、技術的にはどんどん上がってきましたよね。だけどやっぱり自分がどういう写真を撮りたいっていう、イメージがちゃんと持てないと、そういう写真って思ったようには映らないかな。いいカメラを持っていてもね。

◯田中 さっきのゴーギャンの世界じゃないですけど、
例えば自然のものだったりとか仏像だったりとか、例えばそれは時に、奈良だったりっていう、対象物が生き物であれ生き物じゃないものであれ、そのまま見て、これを撮ろうという単純な行動ではないということですか?

●三好 うん。体験かな。例えば奈良だったら、僕は、東京から(来て)ホテルに泊まってまた帰って、というのでも撮れなくはないけど、やっぱり住んでいたら見えてくるものも違うし、霧の日もあるし雪の日もあるし、いろんなシーンが撮れるし、そこで体験もできるし、例えば今日なんかも写真は撮らなんだ(撮らなかった)けど、東大寺の境内を歩いて、赤い紅葉は終わっているけど、本当にあそこの大仏池の周りがイチョウのじゅうたんみたいになって真っ黄色や。やっぱりああいうのを見たら写真には撮らんでも、撮れなくても、やっぱりいいなっていう気持ちがあって、今度チャンスがあったら撮るわっていう感じじゃないですかね。

◯田中 なるほど。
カメラを持ち歩いていて、すぐ何かこれだと思って撮るわけじゃなくて、実際シャッターを切りに行くまでの時間だったりとか、プロセスって三好さんにとって大切なことだということですね。

◯三好 ・・・・・

2
“尽きることのない、写真の魅力と可能性。”

◯田中 僕が三好さんの写真を見させていただいて一番感じたのは、1枚の写真の絵から1つの気持ちというか、1つのことを1つの絵に込めて撮られている気がしたんです。要は1枚の写真にいっぱい想いとか情報とか意図を入れずに、ここの気持ちだっていう。だから一枚一念みたいな潔さを感じたんですよ。

●三好 1つにはシンプルに人に伝えるためっていう意味もあるかな。でも写真を撮るのは、こんなに楽しいわっていうのは未だにありますけどね。

◯田中 熱量が枯れることがないわけですよね?

●三好 うん。自分の興味もあるし、興味もどんどん広がるし、知識っていうか、やっぱり知ったらそういうのが映ったらええなと思ったりもするし。

◯田中 写真ってね、今は時代もあるから、ある意味カメラを買えば誰でも写真は撮れるし携帯でも撮れる時代じゃないですか。だけど、一流にはなれない人の方が絶対的に多い気がするんですよ。

●三好 それは今じゃなくていつでもやっぱり想いがどれくらい強いかっていうところもあるだろうし。

◯田中 ですよね。この中にもきっと多分写真の道を目指したことはあったけれども、今は写真の仕事をしていない…という人もいると思う。

●三好 進行形の人もいるでしょう。

◯田中 もちろん進行形もいらっしゃる。ただ一方で、仕事にしなくても写真は撮れる、楽しめるっていう言い方もできる気もして。

●三好 写真はスマホで撮っても写真やし、それこそインスタ映えでも写真やし。昔っていうかちょっと前よりはどんどん写真というのが、もっと身近なものになって、ある意味楽しいけど、どこでどう評価されるかっていうところの違いかな。だからSNSとかのだと、「いいね、いいね」ってついたらどんどん本当にいいんだってんで自信もつくかもしれないけど、これが本当の評価がどうかってのはまた別ですよね。

◯田中 そこですよね。僕もすごくそう思うんですよ。

●三好 そこでもう「いいね」ついて終わりっていうこともあるし、だけど作品によったら歴史を超えて評価されるっていうものもあるだろうし。だから例えばロバート・キャパの写真にしてもそうだし、ユージン・スミスの写真にしても、お風呂に入っているあの写真が、あの1枚が世の中を変えたんよっていうような作品まで、写真でできるわけだから。

◯田中 そうですよね。

●三好 写真の力っていうのをどう信じるかみたいなところで、それを写真に対してそういう力があるんだっていうことを知って撮るのと、そういうのを知らないで、スマホで見て、「いいねいいね」ってするだけっていうのと、また世界がちょっと違ってきたような気がしますよね。

◯田中 ありがとうございます。今そういう時代のことをどう考えていらっしゃるのかなっていうのを少し三好さんにお伺いしたかったので。

●三好 やっぱり歴史に残るとか世の中を変えた1枚っていうのは、実際に世の中にあるわけだから。そういうところに興味を持つっていうのは、そういうところを知るっていうのは大事かな。だからスマホでこんなちっちゃい画面で見るんじゃなくて、1つには写真ってプリントをしてみて、これくらいの大きさでもいいけど、大きくプリントしてみて、作品として仕上げるとか、額縁に入れてみるとかね。そういうのが面白いところじゃないかな、写真のね。本来はね。

◯田中 そうですね。三好さんのご自宅にも先人たちの写真が。

●三好 だから昔だったらね、本当にスライドにしてこれでOKっていう人もいたかもしれないけど、やっぱりプリントをして額に入れて、また美術館に飾られて、また自分で写真展でもして、また本にでもなって、写真の価値っていうのが残るっていうかな。だって「いいね、いいね」しても、あれ1ヶ月も経ったら覚えてないもんな。

◯田中 三好さんご自身はシャッターを切るときにこの写真を通してこういうことを伝えたいなとか、メッセージ性ですとか、そういうところも考えているんですか?

●三好 「伝えたいな」っていうよりも、なんか例えば奈良でいったらお寺撮っていたらやっぱり時代を超えて、時空を越えてこういう写真が撮れるというか、それが目の前に現れるっていうのは、すごいワクワクドキドキするもんで。その感動っていうかな、自分の心が動くっていうのが楽しいところだし、それを見た人がまた心が動くっていうのが面白いところかなとも思いますけどね。

◯田中 なるほど。対象を目の前にして、自分がどうありたいか、どうあり続けられるかってことなのかもしれないですね。

●三好 ・・・・

3
“その土地を「撮る」こと、地のものを「食べる」こと。”

◇参加者2 三好先生が、今、奈良にもお住まいで住居を構えていらっしゃるかと思うんですが、奈良で撮るっていうことの魅力っていうのを簡単でもいいので教えていただけたら嬉しいなと思うんですが。

●三好 はい。奈良の魅力はやっぱり歴史がそこここに感じられるっていう、もう実際にあるっていう、歴史の舞台に自分がいるっていう実感が得られるっていう、そういう面白さが一番の魅力かな。他では京都よりも歴史があるしとか、そういうところがすごく面白いですよね。ここの、もちいどっていうんでしたっけ?こんなところも歴史があるわけだし。

◯田中 もちいどのセンター街って言うんですね。

●三好 歴史を見たらなるほどなと思ったりもするし、向こうの商店街の入り口のところには銅像が建っていて、行基さんがいたりする。ああいうのはやっぱり歴史を感じるし、東大寺とかどこに行っても歴史って感じる。法隆寺に行ったら1400年の歴史やしと思ったら、そういうのが目の前にある、そういうところに自分を置けるっていうのが貴重な体験かな。その面白さは大きいし、美味しいものもあるし。今日もあれ買うてきましたよ。いちご。

◯田中 いちご?

●三好 古都華。あれ甘いの美味しいな。あんなん東京に絶対ないもん。早からあるわと思って今日買うてきた。あとは柿のジャムとかな。あれは東京で見たことないなと思って、今日買うてきましたよ。

◯田中 奈良、いちごも今いい季節ですよね。三好さん料理はされるんですか?

●三好 東京ではね。こっちではあんまりないけど。東京では料理しますよ。

◯田中 ご自身で?

●三好 自分で。事務所のスタッフの分を自分で僕が作って、作るだけ作って、皆に食べてもらうっていうね。

◯田中 得意料理は?

●三好 中華も多いし、冬はほとんど鍋やな(笑)。

◯田中 皆さんで食べられますしね。

●三好 そうですね。ほっといても電話していたらできているし。最近圧力鍋を買って、これから研究するところです。

◯田中 研究するんですか。写真も研究、料理も研究。すごいですね。

●三好 やっぱりええ写真撮るためには、やっぱり美味しいもん食べる。そういうのもね、ものすごい大事なの。ええもの、本物を知るって言うんでな。どこかで買ってきたもんばっかりじゃなしに、ええもの、本物、特に地のものっていうかそういうのもな。ああいうのを取り入れる、そういうのに興味を持つっていうのは、その料理を撮るってわけじゃないんですけど、そういうのを知って、なんか自分の肥やしにするっていうのも大事かな。

◯田中 いい仕事にはいい食べものを(笑)。

●三好 そうよ(笑)。

◯田中 それ面白いですね。でもきっとそうだと思います。

●三好 大事なことですね。

◯田中 ・・・・

三好和義さんにとっての “よい仕事” とはーーー

「やっぱり妥協をしないで、これくらいでええかな?これは。っていうんじゃなくて、自分が納得いくまで追求する、突き詰めるっていうのは大事にしたいことだなと思いますね。」

聞き手 | 田中孝幸 | Takayuki Tanaka

フラワーアーティスト / クリエイティブディレクター

大学卒業後、出版社勤務を経て独学で花の世界へ。花卸市場勤務時にベルギーのアーティスト:ダニエル・オスト氏と出会い、世界遺産などの展示で協働後、独立。花・植物などの自然要素を表現ツールの中心に据え、文脈を重視したコンセプチャルな作品は多方面で好評を得る。作品制作、空間デザイン、クリエイティブディレクションなどを中心に、国内外企業とのコラボレーション、地方自治体プロジェクト、雑誌連載など多岐に活躍。代表作には、東京の様々な街を舞台に花を生け、独自の花世界を紡ぎ出した婦人画報での連載『東京百花』など。

https://www.takayukitanaka.com/

Work Magic NARAを完全アーカイブ化。 全編を掲載したZINE、完成。

1年の間、奈良の地に多様なゲストを招き、「”よい仕事”とは何か」「”よい仕事”をするために必要なものは何か」という問いを重ねた、Work Magic NARA。全6回のトークの全貌を記録した、6冊のZINEが完成しました。編集、デザインから、製本、発送までそのすべての工程をBONCHI内で行なっています。和本といにしえの神秘からインスピレーションを受け、奈良を感じるデザインに仕上げました。
1年を通してWork Magic Naraの聞き手としてゲストと向き合われた フラワーアーティスト・田中孝幸氏。巻末には、ZINE上梓に際し田中氏が書き下ろした文章と、各ゲストをイメージして生けた花の作品の撮り下ろし写真が一冊ずつ綴じ込まれています。

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